東京高等裁判所 昭和26年(ネ)192号 判決 1951年5月19日
静岡県磐田市中泉千六百八十二番地
控訴人
勅許家元正四位菊波安倍司家
宗教法人皇治教陰陽寮日本
神宮司庁
右代表者主管者
晴善事
木舟直太郎
静岡県磐田市中泉千二百六番地の七
控訴人
勅許家元正四位菊波晁司家
宗教法人儒学治教信徒購買
販売利用組合本庁
右代表者主管者
木舟直太郎
太田丑太郎
鈴木ひさ
静岡県磐田市見付
被控訴人
磐田税務署長
田中熊平
右指定代理人法務府行政訟務局第四課長
杉本良吉
同法務府事務官
遠藤佐恒
右当事者間の昭和二十六年(ネ)第一九二号通知書無効確認請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等代表者は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人日本神宮司庁に対し昭和二十四年八月二十二日納付書領収済通知書領収証書(甲第二号証の一)の送付により昭和二十四年度取引高税三千三百九十八円、間接国税犯則者納金六万七千九百六十円、弁償金八十三円、合計金七万一千四百四十一円の納付を命じた処分並びに、控訴人組合本庁に対し同日同書類(甲第二号証の三)の送付により昭和二十四年度取引高税四千二百十八円、間接国税犯則者納金八万四千三百六十円、弁償金八十三円、合計金八万八千六百六十一円の納付を命じた処分の無効なることをそれぞれ確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴人等代表者において「控訴人等は、いずれも宗教法人であるから本来取引高税の納付義務がないものと確信しているのであるが被控訴人はこれありとして昭和二十四年八月九日附通知書を送付して来たので同月十日磐田中泉郵便局を通じ、控訴人日本神宮司庁は取引高税と称する金三、千三百九十八円同組合本庁は同金四千二百十八円をそれぞれ納付した。しかるに被控訴人は、それにもかかわらずなおも控訴人等に対しそれぞれ請求の趣旨記載の納付書、領収済通知書、領収証書を送付し同記載の金額の納付を命じて来たが、固よりこれは無効であるので、本訴に於てこれが確認を求める。なお、本訴は、右納付下命処分の無効確認を求めるもので、原審で求めたような昭和二十四年八月九日附通知書に基く租税の賦課並びにこれに附帯する処分の無効確認を求めるものでない。」とのべ、被控訴代理人において「控訴人等の右主張事実中、控訴人等が昭和二十四年八月十日それぞれその主張の取引高税に相当する金額を納付したこと、並びに磐田税務署員が、同年八月二十二日控訴人等に対しそれぞれの主張のとおりの納付書、領収済通知書、領収証書(甲第二号の一及び二)を送付したことは認める。しかしながらこれ等書類は、同署員が控訴人等のため控訴人等に代つて作成送付したものであつて、これにより取引高税を賦課したり又は間接国税犯則者納金、弁償金の納付を命じたものでないから、行政処分ということができず、従つて行政訴訟の対象とならない。
なお、被控訴人は、本件通知処分後昭和二十五年二月六日国税犯則取締法に基き控訴人等を静岡地方検察庁浜松支部に告発した。と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
証拠として、控訴人日本神宮司庁代表者は、甲第一号証第二号証の一、二を提出し、被控訴代理人は、右甲号各証の成立を認めた。
理由
磐田税務署員が昭和二十四年八月二十二日控訴人等に対しそれぞれの主張のとおりの納付書、領収済通知書、領収証書(甲第二号証の一及び二)を送付したことは、被控訴人の認めるところである。控訴人等は、これ等書類の送付を目して被控訴人のなした行政処分である納付下命であるとなし、これを無効なりとしてその確認を求めているのであるが、納付書は納税者が納税の際作成するものであり、領収済通知書は取まとめ郵便局その他現金徴収の委託を受けたものが、税務署に対し、領収済の旨通知するものであり、領収証書は現実納付を受けたものが納税者に対し、交付するものであつて、これにより格別税金を賦課したり納付を命じたりするものでないから、被控訴人又はその下僚たる署員がこれ等の書類を作成し、控訴人等に送付したからといつて直ちにこれを納付下命であるとなし、控訴人等の具体的納税義務に影響を及すべき行政処分であるとなすは当らない、これはむしろ被控訴人又は磐田税務署員が納入の便宜のため作成送付したものと認めるのが相当である。これは申告納税である取引高税の納付の場合一層適切である。固より控訴人等が右納付書に記載せられた金額を納付すべき義務ありや否やは別箇の問題であつて控訴人等としては他にこれを争うの途はのこされている訳である。
果してしからば控訴人等主張の本訴の対象たる行政処分は、はじめから存在しないのであるから、これに対し出訴することはできない。従つて本訴はこれを不適法なりとして却下すべく、右と同趣旨にでた原判決は相当であつて控訴人等の控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決した。
(裁判長判事 大江保直 判事 梅原松次郎 判事 奥野利一)